2013年11月1日公開
教育関係者らと策定。乳幼児の適切なスマートデバイス利用に関する「5つのポイント」
乳幼児の適切なスマートデバイス利用に関する「5つのポイント」
スマートフォンやタブレット端末などのスマートデバイスが急速に普及する中、乳幼児のスマートデバイス利用に関して、多くの保護者が顕在的・潜在的に疑問や不安を抱いています。
当社では、乳幼児の「家庭内コミュニケーションの促進や、社会性・創造性・表現力・ITリテラシー向上を図る」ための、効果的なスマートデバイス利用法について研究を進め、広く提言を行う計画です。それに先立ち、まずは保護者の疑問や不安を解消し、「乳幼児と保護者が適切にスマートデバイスを利用できる社会環境の整備」が必要であるとの認識に至りました。
この度、NPO法人エデューステクノロジーズと幼稚園・保育園関係者らと共に、
<乳幼児の適切なスマートデバイス利用に関する「5つのポイント」><保護者からの代表的な質問についての回答>を策定しましたので、ここに発表いたします。

NPO法人エデューステクノロジーズ 代表理事
山内祐平氏(東京大学大学院情報学環 准教授)

スマートデバイスの適切な利用

私は20年以上にわたって、コンピューターをはじめとする様々なIT技術を用いた学習について研究してきました。これまで世界中で行われてきた研究によって、IT技術は適切に利用すれば幅広い年齢層に対して様々な教育的メリットがあることが確認されています。 ただ、特に幼児から小学生という重要な発達段階においては、「ITの利用」について十分に検討することが必要であり、「子どもの発達にとって、どのように使用するのが適切か」というのは、我々のような教育研究機関だけではなく、社会全体で考えなくてはならないテーマだと常々考えていました。
ここ2~3年で家庭にスマートフォンやタブレットが急速に普及し、利用が日常化しています。
これまでコンピューターを幼児や小学生が使う場合、保育関係者や小学校など教育現場で使用されるケースがほとんどでした。しかし現状においては、保育関係者や教員だけではなく、一般保護者も「スマートフォンやタブレットの適切な利用」について考えなくてはならなくなっていますし、様々な疑問や不安を持たれている保護者の方も多いと思います。
そういった疑問や不安の解消に少しでもお役に立てることがあれば、という思いで、今回このプロジェクトに参加しました。

メディアに対して「意識的」な姿勢

この度提言するガイドラインを、保護者の皆様にご理解頂くにあたってまずお伝えしたいのが、スマートデバイスのみならず、テレビなども含めたあらゆるメディアに対して是非「意識的」であってほしい、ということです。
つまり、「手元にあるから、なんとなく与える」というのではなく、「どのように使えば子どもの成長に役立つのか」、「どのような使い方をしてはならないのか」ということを常に考えながら、使用することが推奨されます。
我々のガイドラインもぜひ参考にして頂きたいとは思いますが、最終的に使用方法を決めるのは保護者の皆様です。このガイドラインをきっかけに、ご家庭でよく話し合って頂けたら幸いです。

子どもの成長のために意識したい事

まずは、スマートフォンやタブレットを「人と人とのコミュニケーションをつなぐ媒介(メディア)として使用する」ということです。
タブレットやコンピューター、テレビに子守をさせてしまうのではなく、ぜひメディアを経由して親子や友達同士が対話する時間を作ってほしいと思います。
これが、タブレットやスマートフォンの利用方法として、一番望ましい形だと考えています。
次に、「子どもに対して様々な経験を保証する」ということです。心身の発達段階においては、当然身体を動かす経験も必要であり、メディアについても1つに偏るのではなく、幅広いメディアに接触する経験が必要です。
外で遊ぶ経験、本を読む経験、そしてスマートデバイスでインタラクティブな遊びをする経験など、多種多様な経験のバランスをとることが重要だと思います。
最後に、「時間を意識する」ということです。今回、「メディア(スマートデバイスを含む)の利用は、2歳以上は1日2時間以内」と提言しています。
また、ガイドラインには挙げておりませんが、保育関係者の意見を総合すると、「2歳未満については1日30分以内」がひとつの目安となると考えています。但し、この適正時間に関して「2時間以内だからOK」というように時間を機械的にとらえるのではなく、まずは「どういう使い方をするのか」ということをしっかりと考え、その上で時間についても意識して頂きたいと思っています。
今回のガイドラインでは、以上の点を更に分かりやすいよう、簡潔に表現してあります。

未来に向け、より教育的なものに

スマートデバイスが登場してからまだ数年。その前身であるコンピューターのマルチメディア教材を考慮しても、子どもたちが情報通信技術を利用してきた歴史はまだ20年程度です。
絵本やおもちゃは100年、200年という歴史のなかで多くの人が努力し、子どもの発達や成長に役に立つようなコンテンツや社会的な仕組みを構築してきました。だからこそ今、子ども達が安心して絵本やおもちゃで遊びながら育っていく環境が整っているのです。
一方で我々は、未来に向け「スマートデバイスをより教育的なものとして社会に位置づけるためにどうすべきか」、「どのようなアプリケーションやシステム、サービスがあるべきなのか」を、今後数十年かけて検討していく時期を迎えています。
今回のガイドラインが具体的な形で、良いアプリケーションやシステムに実装されていくことを望むとともに、今後も様々な側面から支援していきたいと考えています。

東海学院大学人間情報学部 講師
佐藤朝美氏

親子の関係性が深まるようなスマートデバイスの可能性

保護者の責任や義務を果さねばとの思いがゆえに、うまくいかずイライラが募りがちな育児ですが、ちょっとしたユーモアやジョークを取り入れることで、子どもとのかけがえのない楽しい時間が作れる! 10年以上前に出版された書籍「PlayfulParenting」にはそんなヒントが書かれていました。
現在であれば、スマートデバイスがその役割を担ってくれるのではないでしょうか。スマートエデュケーションさんとは、子どもの経験が豊かになり、親子の楽しい時間が膨らみ、さらに親子の関係性が深まるようなスマートデバイスの可能性を一緒に模索することが出来ると思い、提言策定に参加しました。
策定に向けての勉強会では、メディアに否定的な研究やガイドラインとも真摯に向き合い、議論を重ねました。
子どもの直接経験の時間を奪い、親子の対話時間を減少させるかどうかは、アプリのデザインにより回避出来るのではないか、さらには利用する保護者の心構えによりアプリのメリットを多く享受できる可能性が広がるのではないかとの結論に至っています。
スマートエデュケーションさんには、子どもにとって良質な時間だけでなく、保護者にとってもPlayfulな育児時間を創出するアプリを提供してくれることを期待しています。また、良質な絵本が世代を超えて読み継がれるように、スマートデバイスでの時間も受け継がれる、そんなアプリを提供してくれることも期待しています。

園田学園女子大学人間健康学部 教授
堀田博史氏

幼児期のメディア利用は、コミュニケーションの起点となるように

スマートフォンやタブレット端末が、幼児を育てる家庭で急速に普及している現状を考えると、保護者が安心してスマートデバイスを利用できる環境とは、を知ることは急務です。 タイミング良く提言策定のお話しがあり、私の知見などを活かして、保護者の顕在的欲求に応えることができればと考えました。
私は「幼児期のメディア利用は、コミュニケーションの起点となるように」と言います。なぜなら、幼児にはメディアをコントロールする力が育成途中だからです。
ある保護者は、アプリを使用することで、子どもに豊かな知識が身に付けばと願います。また、アプリを使用すれば、静かに集中してくれて助かる、という保護者もいます。
アプリを使用させる動機は様々です。「いいじゃないですか、それで!」と私は考えます。ひとつだけ保護者に伝えたいのは、幼児がアプリに触れる時間や幼児がテレビを視聴する時間は、保護者が子どもの様子を観察する時間と考えてみてください。
一緒に時間を共有することで、幼児の思考過程などの新たな発見がきっとあります。これが、コミュニケーションの起点になるのです。

学校法人ふたば学園理事長/川崎ふたば幼稚園園長
小川哲也氏

豊かな直接経験をできるように、IT機器はとても有効

幼児には自然やその他と直接触れ合う「直接経験」が一番大切だと思っています。しかし、最近の子どもたちは直接経験が苦手です。というより、どうやって遊べばよいのかを知りません。 豊かな直接経験をできるように、IT機器はとても有効だと思うのです。
決して「IT機器を勉強する」とか「IT機器で勉強する」というのではなく、たとえばリズムアプリによって実際に楽器を作りたくなったり、「街」の絵本によって自分が住む街に興味を持ったり、撮影した写真を友達同士で見せ合い、会話が広がる・・・。
そういう有効利用をするためにはまず「IT機器を子どもたちに使ってもらう際に不安に思えることをあぶり出し、適切な使用方法・環境を考えなければいけません。
この勉強会に参加して、各方面の研究者や実践者が情報と知恵を出し合って、まずは利用にあたっての基準を提言しました。今後は「どうすれば有用な使い方になるか」の議論を深め、子どもたちの幸せに供することができたらと考えています。

社会福祉法人コビーソシオ理事長/株式会社コビーアンドアソシエイツ代表取締役
小林照男氏

未来を生きる力を身につける

スマートデバイスの登場で、文字を読めない乳幼児でもタップやスライドなどの直感で操作ができるようになり、子どもたちにとってITが身近になりました。 乳幼児が自分でアプリを起動し遊ぶ姿も、特別ではなくなりました。これからの未来を生きる子どもたちは、ITを避けて通ることはできません。
日常の中でITに親しむことは、とても大切です。しかし、ゲーム性が強いアプリなどに熱中しすぎて生活習慣が乱れ、実体験とのバランスが崩れるなどの悪影響も懸念されます。
技術環境が整う一方で、乳幼児が活用するための具体的なガイドラインがないことに以前から危機感を持っている中で、この研究のお話をいただき、賛同させていただきました。
この提言が、子どもたちの正しいITリテラシーを育み、未来を生きる力を身につける一助となればと思います。
また、スマートデバイスの個人利用だけでなく、集団保育における教材としての活用も、今後広がっていくことでしょう。
ITを通して、より豊かな体験ができるように、そして、マナーやルールが自然に身に付けられるように、保育現場において引き続き研究を行っていきたいと考えています。

学校法人聖愛学園・聖愛幼稚園園長
野口哲也氏

この「新しい教材」にしかできないことは何か

私自身、子どもの頃からコンピューターが好きで、現在、「ITを使って便利かつ効率的に仕事をする」という趣味と実益を兼ねた実験を幼稚園でおこなっています。 そんな私でも(だから?)「ITを『保育』に導入する」ということについては、かなり慎重になります。
感受性が強く、何でもスポンジのように吸い込んでしまう子どもに、単に「流行しているから」という理由でスマートデバイスという「新しい教材」を安易に与えることは避けるべきです。
この「新しい教材」にしかできないことは何か、この教材を通して子どもに何を伝えたいのか、そしてそれをどのような形で提供するのがベストなのか、しっかりと検討した上でのみ導入されるべきだと考えています。
今回の提言はそのために大きく活用されることでしょう。しっかりとした裏付け、論理性、そしてわかりやすさ。これまでにない提言が作成できたと思います。
 

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